『ルネッサンス – 再生への挑戦』 カルロス・ゴーン(著)中川治子(訳) / ダイヤモンド社

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ビジネスに、希望はあるか?

「トヨタの人は自動車が好きだ。しかし本田の人は自動車を愛している。(中略)トヨタが愛しているのは自動車ではなく、むしろ製造システムなのではないか」(「インターネットは儲からない!」橘川幸夫著・日経BP社)

では、カルロス・ゴーン率いる日産が愛しているのは何か? 本書を読むと、答えは「製造の現場」かなと思える。ミシュランの工場勤務からキャリアをスタートした彼は、現場に緊張感をつくりだし、社員のモチベーションを高めることの重要性を身体で理解しているからだ。日産の「ルネッサンス」によって最も変わったのは、たぶん、現場の雰囲気なのだろう。

「近代ビジネスにおいて権力とは現場から遠いところにあるものだ。(中略)しかし、これからの時代は、現場が権力を取り戻す時代だと思う。現場に権力がある企業だけが生き延びる方法論を見つけるであろう」(同上)

カルロス・ゴーンは、グローバリゼーションを絵に描いたような人だ。ブラジルで生まれ、6歳からレバノンへ移り、大学時代をパリで過ごし、ミシュラン入社後はブラジル、アメリカと転勤し、ルノーに移ると同時にパリへ戻り、現在は妻と4人の子と共に東京で暮らしている。彼は言う。「『わが家だと感じるのはどこか』と訊かれれば、『家族がいるところ』と答えるだろう」

ミシュラン時代、コマツとの仕事で初めて日本に来た彼は、コマツの全従業員が同じユニフォームを着ていたこと、管理職がほとんどしゃべらなかったこと、工場のオペレーションが非常にシンプルであったことに驚く。感銘を受けて帰国した彼は、日本のマネジメント・スタイルが欧米のものとは異なり、先入観を持っていては通用しないことを理解する。

衝突するのでなく、相手のやり方に敬意を表すること。なぜ違うのかを時間をかけて考え、そこから学ぶこと。そうすれば、文化の相違は必ずイノベーションをもたらすだろうという彼の確信は、すがすがしいほど。複数の国で多様な文化環境を体験してきた彼にとって、「違い」とは「希望」そのものなのだ。

そんな彼が唯一、苦悩する場面がある。ルノーに引き抜かれ、ミシュランを去った時のこと。全面的に彼を信頼し、責任ある地位に起用し、バックアップしてくれた社長フランソワ・ミシュランにどう話そうかと悩み、何週間も心の中で準備する。

「会いに来た目的を話すと、彼は呆然として言葉をのんだ。私は理由を説明し、辞職によって生じるプラス面を強調しようとした。私の転職先はライバル会社ではなく自動車メーカーであること、この業界を去るわけでもなければ、会社が私の力を必要としている時期に去るわけでもないこと。しかし、どんな理由をつけようと、どんなふうに説明しようと、十八年間培ってきた関係を絶つという事実を言い繕うことはできなかった。話し終えたあと、フランソワ・ミシュランと私とのあいだの何かが壊れたことを感じた」

信頼関係を築くのはものすごく大変だけど、壊すのはとても簡単。だが、私たちは、それをやらなければならない時がある。自分が捨てたもの、壊したもの、傷つけてしまったかもしれないものについて意識的であること、その痛みを忘れないでいることは、生きていく上でいちばん大切なことかもしれないなと思う。

カルロス・ゴーンは、権力志向のビジネスマンではない。現場を尊重し、異質の相手を尊重し、自分のルーツや家族を尊重する。この3つがあるから、彼の前向きさは嘘っぽくない。信じてみようかな、という気持ちになれる。

2002-04-22

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