『Isole(群島)』 アントニオ・タブッキ / Universale Economica

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タブッキの海。

長かった梅雨が明け、小舟という名のオープンカーで海辺の町へ行った。
夏の陽射しは、サプリメントからは摂取できないヴィヴィッドな栄養素をチャージしてくれる。
ほてった肌をテラスで落ち着かせ、ジャコメッティの彫刻を思わせる細いグラスにビールを注ぐと、水平線の近くにキラキラと輝く島が見えた、ような気がした。
タブッキの短編をつれて行くだけで、そこはティレニア海になる。

「Isole」の主人公は、トスカーナの島で刑務所の看守をしている。その日は、年金生活前の最後の仕事の日。手術が必要な男の囚人を、本土の病院に連れていくのが彼の任務だ。彼にとっても囚人にとっても、別の意味で、これが最後の旅となるだろう。船の時間はゆっくりと流れ、彼はオレンジの皮をむく。北に住む娘に宛てて、心の中で手紙を書くのだった。

仕事とプライベート、過去と未来、現実と空想が自在に入り混じって、オレンジの皮とともに海面へ消えてゆく。娘のマリア・アッスンタとその夫ジャンアンドレアのこと、彼らのもとへ行くつもりはないこと、これまでの自分の人生のこと、亡くなった妻のこと、明日からの年金生活のこと、そして、目の前の囚人のこと。

彼の想像は具体的だ。チンチラウサギを飼う計画については、飼育方法にまで話が及ぶし、これから食べるランチについては、カッチュッコ(リヴォルノ地方の魚介スープ)から始まり、メバル、ズッキーニのフリット、マチェドニア、チェリー、コーヒーまでテーブルに並ぶ。

正午前に着いた港では、犬がけだるくしっぽを振り、Tシャツを着た4人の若者がジュークボックスのそばでふざけている。ラモーナという懐かしい歌がリバイバルし、トラットリアはまだ閉まっている。彼は、赤いニスが剥げかかったポストに、囚人から託された手紙を投函する。手紙の宛名はリーザとあるが、彼は囚人の名をおぼえていない。

それらすべてが、小さな点のような群島のイメージに結晶する。
強い陽射しが水平線をきらめかせ、島が見えなくなるとき、彼の孤独はくっきりとするのだ。
タブッキの真骨頂は、海の描写だと思う。
手紙、音楽、そして、おいしそうな食べものも欠かせない。

*Piccoli equivoci senza importanza (1985)に収録

2006-08-02

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