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『恋人たちの失われた革命』 フィリップ・ガレル(監督) /

ダメな男は、美しい?

今さらなぜ、1968年の五月革命の話なんて撮るのか。フィリップ・ガレルは、当時のパリの風俗を完璧なモノクロのコントラストで再現した。ひとつひとつのシーンがビクトル・エリセばりの完成度で、しかも3時間という長さなのだから、あきれ果ててしまう。

主役のフランソワを演じたルイ・ガレルは、監督の息子。つまりこれは、1968年に20歳だった監督自身を、ようやく20歳になった美しい息子に演じさせたナルシス的デカダンス映画なのだ。
ヴィスコンティがヘルムート・バーガーを超越的な美しさで撮った4時間の大作「ルートヴィヒ」(1973)や、カート・コバーンの自殺直前の数日を描いたガス・ヴァン・サントの「ラスト・デイズ」(2005)にそっくり。闘争の退屈さを延々と映すシーンは、アモス・ギタイの「キプールの記憶」(2000)の倦怠そのもの。

たとえ醜い俳優でも信じられない映像美で魅せてしまう監督のことだから、フランソワの存在感は非の打ちどころがない。途中、フルでかかるニコの曲とキンクスの曲もめちゃくちゃかっこよくて、映画で音楽を使うならこういうふうに使うべきという最高のお手本だ。フランソワとリリーが恋に落ちるシーンだって、恋に落ちるってこんな感じ以外ありえないでしょうという不滅の説得力がある。さすが、ニコと長年暮らし、ジーン・セバーグカトリーヌ・ドヌーブにも惚れられた監督、ただものじゃない。

だけど、だからこそ、フランソワがふられるプロセスは、さらにリアル度増量。彼の美しさは圧倒的だけど、フィリップ・ガレルの映画だからして、当然、ダメ男なのだった。ダメなものはダメなまま描き、うそっぽい希望を混ぜたりしないところが素晴らしい。

フランソワに似たタイプの友達が、かつて私にもいた。救いのないこの映画は、救いのない結末を迎えてしまった彼のことを思わせる。

フィリップ・ガレルは、この映画を撮ることで、20歳のころの自分に決着をつけることができただろうか。そう簡単にはいかないはず。監督は、ダメな男の映画を作り続け、私もまた、このような美しい映画を繰り返し見てしまうのだろう。現実に救いがない以上、救いのある映画なんて見たくない。救いがなく、結論が出ない映画を求めているのだ。フィリップ・ガレルがもう何十年もこういう映画を撮っているという事実にのみ、私は救われる。

2007-01-21

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『孤高』 フィリップ・ガレル(監督) /

女の顔は、30代で差が出るみたい。

音のないモノクロフィルム。客席は水を打ったように静か。
「お腹が鳴ってしまったらどうしよう」などと心配しながら見るレイトショーは苦痛。食事をしてから見ればよかったなと後悔したけれど、こんな映画、食後に見たら80分間熟睡してしまう!

タイトルもクレジットもない。これは、フィリップ・ガレルのプライベートフィルム(1974年)なのだ。映っているものの殆どは、2人の女優ニコとジーン・セバーグの表情のアップ。「裸体よりも顔のほうが裸だ」というようなことを以前アラーキーは言っていたが、まさに顔フェチの映画。人の顔だけをこんなに凝視してもいいものだろうか?と不安になるくらいに。

2人の女優と監督の関係とか、ジーン・セバーグを取り巻く政治的状況とか、背景はいろいろあるようだけど、ひとまず、ストーリーはないといっていい。注目すべきは、2人の女優が同い年だという事実で、2人とも30代半ばである。30代半ば? うっそー! ジーン・セバーグ、かなり老けている。それに比べてニコ、かなり若い。実際、ジーン・セバーグは5年後に亡くなるのだが・・・。

フィリップ・ガレルは、10年間ニコと暮らす中で、彼女の出演する映画を7本撮り、すべて商業的には失敗したという。そんな映画が今、日本で上映されるって不思議。

ジーン・セバーグが自殺をはかろうとするシーンで目が覚めた。映像で目が覚めるなんて、面白い。無音の映画のよさは、映像に集中できること。セリフがあれば字幕がほしくなるし、字幕があれば、いろんなことが気になって、映像の何割かは見逃してしまうことになるから。

したがって「無音の映画体験は貴重だし、発見がある」というふうにもいえるのだけど、個人的には、7月10日に発売された「ヴェルヴェット アンダーグラウンド&ニコ」のデラックス・エディション アルバムをずっと流してくれたら、どんなに素敵な時間になったことだろう!と思った。ついでにシャンパン&カシューナッツ付きっていうのはどう?「ニコとジーン・セバーグとシャンパンの夕べ」。これで¥2500だったら、私は行く。

今はなき渋谷の五島プラネタリウムでは、週末だけ、解説を少なくして星空と音楽を心ゆくまで堪能させてくれる「星と音楽の夕べ」というのをやっていた。映画館にも、そんなスペシャルな夕べがほしい。

*渋谷シネ・アミューズでレイトショー上映中

2002-07-14

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